Archive for 11月 3rd, 2011

  • 第36回「大坂町人学者 山片蟠桃」

    Date: 2011.11.03 | Category: 未分類 | Response: 0

    第36回北天満サイエンスカフェは「北天満秋のコラボレーション」ということで、商店街のお祭りと同時開催でした。そのため商店街はいつもより人通りが多く、とても賑わっていました。

    幼稚園児たちのかわいいソーラン節が終わった後、椅子を並べていると、次々と人が座っていきます。コラボレーションの効果が期待できそうです。
    今回のテーマは「大坂町人学者 山片蟠桃」。江戸時代に商人として働きながら学者としても活躍した山片蟠桃と彼の著書「夢の代」について、元大阪市立大学の菅野礼司先生がお話してくださいました。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    江戸時代、大坂(当時はこざと偏ではなく土偏でした)は40万人もの大人口を抱え、商業や金融業の中心地として発展していました。
    大坂の人口の98パーセントが町人だったことからも、大阪が商業の町であったことがわかります。
    ですが、当時の「士農工商」の身分制度では、商人の地位は低く、武士から抑圧されていました。そのような状況の中で財を蓄え実力を得た商人たちは自ら学問所や塾を作り、商業の正当性を主張し、自分たちの地位を向上させようとしました。
    そのようにして作られた学問所の一つである「懐徳堂(かいとくどう)」で学んだのが山片蟠桃でした。
    では蟠桃が学んでいた懐徳堂は一体どんなところだったのでしょうか?

    懐徳堂の初代学主であった三宅石庵(みやけ せきあん)はひとつの学問を教えるのでなく、朱子学や陽明学、仁斎学の良いところを取り寄せて商人たちに紹介しました。また講義中の出入りは自由であり、忙しい商人の生活スタイルに合致した自由な気風の学問所でした。このような自由な学風が、蟠桃をはじめとする優れた学者を輩出する礎となったのでしょうと先生はおっしゃいます。

    「そういえば懐徳堂の出入りが自由というのはこのサイエンスカフェと同じですね」司会のユニークな指摘に菅野先生や、お客さんから笑いがこぼれます。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    続いて先生は山片蟠桃の紹介をします。
    蟠桃は1748年に播州で生まれました。13歳で大坂堂島の商人升屋・山片家の別家を相続します。仙台藩の財政危機を救って仙台藩の蔵元となるなど、彼の商売の腕は抜群だったようで、升屋は一躍大商人となります。さらに蟠桃はアイデアマンでもあったようで、検米の際に俵からこぼれたお米をかき集めて販売して利益を増やしたそうです。商人として働く傍ら、、町人が設立した学問所である懐徳堂と、脱藩医者麻田剛立の作った天文学の私塾、先事館(せんじかん)で勉強をし、その講義内容をまとめた『夢の代』という本を著します。

    この本は全12巻からなり、天文や地理などの自然科学から、歴史、社会制度や仏教や神道などの宗教についてなど、内容は多岐にわたります。これだけ幅広い分野についての本を一人でまとめた彼の頭脳と努力には本当に舌を巻きます。
    蟠桃の学問の姿勢は、合理的精神によって疑わしきものを徹底的に吟味し批判するというものでした。この本の中で蟠桃は中国伝来の天文学を徹底的に批判し、西洋のコペルニクス地動説を支持しました。また宗教観、歴史観も当時の通説とは一線を画した画期的なものでした。そして応神天皇以前の日本書紀の記述を神話であるとして否定しました。蟠桃は唯物論に則って鬼神や怪異の存在を退けました。

    このように『夢の代』の自然科学や、宗教、歴史についての記述では、科学的な合理主義に基づいた先進的な蟠桃の考えを読み取ることができます。

    「ここで注目すべきことは、蟠桃はただ西洋の科学を手放しに賞揚していたわけではなく、西洋科学も不完全なところがあり、今後も変化して、発展していくだろうと主張していたことです」と先生は補足します。

    一方社会制度については、蟠桃は保守的な考えの持ち主でした。鎖国制度や士農工商をはじめ、幕藩封建体制を支持しました。これは彼が幕藩体制の下で栄えた商人であったためでしょうと先生は説明されます。

    閉鎖的な封建社会制度の中で、開かれた商業都市大坂には先進的な情報の交流という二面性がありました。

    「やはりその時代の思想から完全に抜け出すことは難しいのでしょう。ここに山片蟠桃の矛盾と限界を見ることができます」先生の的を射た考察に一同うなずきます。

     

     

     

     

     

     

     

     

     
    今回は秋のコラボレーションの効果もあり、大勢のお客さんにご来場いただきました。サイエンスカフェを知っていただくいい機会になったと思います。また足を運んでいただければ幸いに存じます。
    今回はお祭りの進行上、開始時刻が遅れ、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

    菅野先生、ご来場の皆様ありがとうございました。(W)

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